少年の

 

 

 暇つぶし文章。

 

 

 砕け散り焼き焦げた血肉。切断された手足が樹木の枝のように民家の壁へと突き刺さる。ひび割れた空と粘つく悪臭が鼻につく。
 屍と瓦礫の山の中で、彼は一人立ち尽くしていた。
 彼の右腕は先程千切れ落ち、腐臭を放っている。捻った蛇口のように血が流れ出る。だが、もはや彼にとってそんなことはどうでもよかった。泥に埋もれた意識の中では、彼が認識できることは一つに限られる。
 目の前に少女がいた。
 どこか遠くの出来事のように、少女の叫び声が響いていた。
 悲鳴を発しているのは十代半ばの少女だ。幼さを残した顔立ちは恐怖と痛みでグシャグシャになり、体の穴という穴から血を流していた。鼻血、血涙、吐血。あらゆる方法で血は流れていた。
 少女の血液は泡立ち、煮だったストロベリージャムのように見えた。
 穴だらけの体を必死に支え、少女はこちらを見ていた。
 少女は助けを求めていた。潰れた喉で赤い泡を吹き、何かしら意味のある音を発す。
 少女にとって手を伸ばした先にいる少年は英雄だった。決して誰よりも強く、誰よりも賢いような男ではない。見栄っ張りで意地っ張り。普通に弱くてどこにでもいる少年だった。
 それでも少女にとって少年は英雄だった。必ずどんなときでも自分を助けてくれた。
 死への恐怖の中、正気でいられるのは自分だけの英雄がいたからだ。
 少女は異様に目を光らせ、少年を見つめていた。彼の名を呼んだ。彼に手を伸ばした。
 少年は何もできなかった。

 

 いつかの日の記憶だ。自分の記憶とも言い難い。が、その地獄を味わったという記憶だけはある。
 ただ、一つだけは言える。
 ──これが、全ての始まりなのだと。