異様な熱気が顔を覆う。アルデスは照り付ける太陽の下で、額に光る汗を拭った。
訓練場にはまばらに人が散らばり、各々の技を磨き上げている。
休暇なんて必要ない。休めば休んだ分だけ周りに置いて行かれる。
事実はどうあれ、彼はそう確信をもって、貴重な休暇も鍛錬に費やしている。
強さが、戦う力が、何者にも屈せぬ力が、アルデスには必要なのだ。
(もう、もう二度とあんなことは……!)
血が出るほどに唇を噛み締め、自らの過ちを脳内で反芻する。
アルデスをかばい、鮮血を散らす上司。
愚かな行為を叱咤する同僚。
こちらを嘲るような目で見てくる他人。
弱さだ。
(俺が、俺だけが間抜けでバカで弱いからだ)
鉛のように重い腕を振るう。
仮想の敵を想像し、その敵を討ち取るイメージを作る。
ただひたすらに敵を圧倒する力があればいい。
強ければ、誰も傷つかない。誰からの失望も受けない。
強さ強さ強さ強さ、強さ。
そうだ全て強くなればいい。
力を手にするという欲望を込め、鉛のように重い腕を闇雲に振るう。
余すことない全身全霊を込め――
「やめておけ」
圧の籠った声が、鼓膜を揺らす。
まるで肝を掴まれるかのような、圧迫感に思わずアルデスは身を固めた。
手から剣がスルリと抜け、地面に転がる。
重厚な金属音を聞きながら、呆けた脳みそのまま声の主を確認した。
「……誰がどう見ようがオーバーワークだ。少し休め」
黒髪の男がアルデスの拾った剣を拾い上げる。男の一切の無駄なく鍛え上げられた肉体には、数々の傷跡が散らばっている。彼が数々の戦場を駆け抜けてきた強者だと一目でわかる。
アルデスはその強面の男のことを知っていた。いや、ナイツロードに所属する者なら、知らぬ者の方が稀であろう。
「グーロ・ヴィリヴァス……」
「……」
若輩で未熟な自分が話しかけられるとは、夢には思わなかったアルデスは、思わず男の名を口からこぼした。
グーロは黙って鋭い目つきでアルデスを睨む。
睨まれたアルデスは、肩で息をしながら、話しかけられた理由を探す。
何故、ナイツロード内でも、トップクラスの実力者が、新米程度の実力しか持たないアルデスに話しかけるのか。
疲労でふやけた思考では、考えもまとまらないアルデスは、ただただ息を吸って、吐いた。
「……」
「……」
沈黙。
どちらも会話をしていたことを忘れたように黙りこくってしまう。
意味不明の拮抗状態を、どうにかしなければならない。アルデスはそう考え、とにかく言葉を出すことにした。