爆音。
青々と晴れた空に破壊の振動が伝わっていく。
「なんだなんだぁ!?」
「ビーチの方ですね」
突然の事件に動揺を隠せないダンツは、思ず持っていたジュースを落としてしまう。
慌てるダンツに対して、シオンは落ち着いた様子で音の方角へ鋭い視線を移した。
「狼狽えるんじゃねえよ犬」
「狐だ! 不愉快な呼び方はやめろ!」
ダンツを煽りながらテルモは喜びを隠さずに獰猛な笑みで顔を歪ませた。
「こいつぁ、上物だぜ。面白そうじゃねえか」
「……とにかく、油断は禁物でしょうね。どうしましょうフィリアスさん」
「……」
「あのー、フィリアスさん?」
シオンの真剣な眼差しとは裏腹に、どこか気の抜けたような笑みを浮かべるフィリアスに他の三人は戸惑いが生まれる。
「とりあえず、行こうか」
「?」
複雑な表情を浮かべるフィリアスに疑問は持ちながらも事件は事件だと三人は顔を見合わせて走り出した。
現場に急行したG–cref隊の目の前に現れた光景は、今まで見たことなかったものだった。
死の派閥の異形なクリーチャーや魔の派閥の残忍な殺し屋が作り出す凄惨な状況とも勝るとも劣らない。
先頭に立つフィリアスの側で控える三人は戦慄を隠せなかった。
そう、まだ未熟とはいえ少なくない戦場を駆け抜けてきた彼等の目の前に現れた光景とは。
彼等の目の前にあった光景とは、
「ぐわはっはっはぁッ!! 生ぬるいぞお前らァッ!!」
「リンショウ殿のうつけ者ぉ!」
「あ! お前ら! お前らも止めるの手伝ってくれ!」
史上最悪の酔っ払いが暴虐を限りを尽くすのを阻止する歴戦の戦士たちがいた。
加えて言えば、その争いはユースティアにおいても有数の実力者達によるもので、フィリアス以外の三人では実力不足と言わざるを得ないものだ。
ただの酒乱の筋肉フンドシが暴れているとはいえ、その動作の一つ一つが規格外でありながら完成されているのがわかる。
「んなアホな」
気の抜けた声も出るだろう。
だが、ダンツにとっては下手をしなくても死にそうなレベルの戦いにしか見えない。
ダンツが仲間たちの様子を見れば、各々が戦闘態勢に入っていく姿が目に入る。
「よし、総員突撃! リンショウさんの沈静化を図りますよ」
「おうよ! つまらんと思っていたが愉快なこともあるではないか」
「了解しました!」
「ちょちょちょちょちょっと待ってください!」
何ら気にした様子もなく、玉砕しろと言わんばかりの命令を出すフィリアスにダンツは声を荒げて意義を唱える。
「ダンツ、命令は受け入れるものですよ」
「いやいやいや、フィリアスさんならともかく、俺らが三人まともな作戦もなく入ったところでどうしろって言うんですか!」
「あぁ? つまらん戯言で吾輩の楽しみを潰すのか貴様」
「酔っ払いを止めるのに命かけるほうがつまらんわ! ……フィリアスさん!」
必死の形相でフィリアスに命乞いをするダンツに対し、
「総員突撃用意!」
「何でぇ!?」
凛とした無慈悲な声にダンツは苦悶の声を漏らす。だが、命令は命令だ。受け入れる他はない。
強者との戦いに心躍らせるテルモと、あくまでも命令に忠実なシオンを見ながら、ダンツはヤケになりながら杖を構える。
「総員突撃!」
せめて、女の子の水着がポロリとかしてくれよ! ……そう、心の中で慟哭するダンツだった。