いきもの

   意志ある者達

1.調整者としての生物
 【次元喰らい】出現以前、いわゆる生物という個体は、両手の指の数にも満たなかった。それで世界のバランスは保たれていたからだ。
 しかし、【次元喰らい】の出現により、世界は分裂し、細々な世界にそれぞれの意志ある生物が誕生することとなった。
 それは【ソムニウム】と【イグスティウム】のバランスを調整し、次元の調和を保つためである。いわば、調整者としての役割がある。
 生物は少なからず、【ソムニウム】や【イグスティウム】を保有することができるため、極端に集中することを防ぐことができる。
 また、【イグスティウム】の破壊の力を逆手にとり、死という概念が創られた。これにより、集まった【ソムニウム】を分散させ、【イグスティウム】の集中、つまり【次元喰らい】の復活の阻止に効果的なものとして創られた。

2.意志ある者
 自らの意志を持ち、様々な有り様を見せる生物は、おおよそ三つの段階から成り立っている。

【肉体】
 物質的な物を指す。超自然的な反応は起きず、肉体のみでは、物理法則の域を超えない。
 生物にとって、世界に影響を与えるための手段として、最も安易な物である。
 肉体を持つことは、自身を保つために、非常に優位である。
 
【魂魄】
 精神力により、超自然的な力を表すモノ。
 世界そのものと繋がり、世界が持つ特異な力を引き出すこともある。

【存在】
 そのものがそれであるという概念的なモノ。
 【ソムニウム】や【イグスティウム】の集合体が、ある一つの形として成り立っているのが、存在というべきものである。
 認識することされることによって、その存在が形作られているとされる。

 生物はこの三つの要素を持っており、その例外はない。
 一見、歪な状態で生まれたとしても、これら三つの要素が相互に作用し、バランスが取られるとされている。

4.種族と位階
 三つの要素から、生物は成り立つと言ったが、種族によってどの要素を核として、生存しているかが違ってくる。
 この【幻獣次元】においては、大きく分けて、四つの種族が生息している。

【神族(デウソイド)】深界層
 創造主と同種の力を得た者。血肉、魂を保有せずとも問題がない。
 万物を創り、破壊する力「アルケー」を扱える。

【天族(トランソイド)】第三界層
 超越存在。血肉、魂に縛られない。存在を根源とする。
 自らの存在を核とし、ソムニウムを特定の形に変える異能力「イグジスト」を扱える。

【魔族(デモニロイド)】第二界層
 魂魄依存体。血肉を超越し、魂を存在の核とする。
 結晶系、霊体系、血溶系の三つに分類されることが多い。

【地族(アースロイド)】第一界層
 肉体依存体。血肉に縛られた存在。

 地族と魔族に関しては、特定の肉体と魂魄の構造を持った、同一的なものが多い。
 それに対し、天族と神族は、下位の種族の特徴を持つものの、一個体だけの固有種となっている。
 

ソムニウム、イグスティウム

   世界を構成する因子

1.創世因子【ソムニウム】
 幻獣次元において、あらゆる世界は創造主のカケラである【ソムニウム】により、構成されている。
 人間、動物、空気や水、有機物や無機物、概念や想い、あらゆるものがそれにより形作られる。
 万物を構成するものであり、次元全体の量から増加も減少もしない。

2.集中する【ソムニウム】
 【ソムニウム】が一つの存在に集中すると、その者は世界に影響を与える存在となり得る。
 例えば、魔法や超能力などの超自然的な能力を持つ者や、新たな技術の開発者などは【ソムニウム】の保有量が高い。
 保有量が高ければ、与える影響が大きく、他からの影響を受けにくくなる。逆に保有量が少なければ与える影響は少なく、他からの影響は受けやすくなるということである。
 また、【ソムニウム】は濃度の高いモノに引き寄せられる特性(創造主自身が自己を修復するためか)があり、濃度の高いモノがより【ソムニウム】を蓄えることになる。
 
3.壊世因子【イグスティウム】
 何故【ソムニウム】に引き寄せ合う特性がありながら、全ての【ソムニウム】が一つにならないのかというと、これには【次元喰らい】から放出されている【イグスティウム】が関わってくる。
 主な特性として【ソムニウム】の引力を打ち消し、拡散させる能力がある。 これにより【ソムニウム】の集合体、つまり世界の破壊が行われている。
 【六元界】と【幻獣世界】とで上手くバランスを取っていたが、ほとんど破壊されてしまったため、次元全てが終末に向かっている。

ユースティアに至るまで

毎週金曜夜21時を目安に設定を少しずつ投げていきます。

 

 

1.創造主
 外次元の存在である創造主は、完全なる無から新しい次元を創った。
 創造主は始原世界を創り上げ、その世界で永い眠りにつく。
 始原世界は創造主が眠りにつくために、創られた小さな世界であり、完全な調和が保たれていた。そこでは、わずか六体の獣【六界獣】が住まうのみで、争いも無く、平和で豊かな暮らしが続くかと思われた。
 しかし、外次元から突如として現れた【次元喰らい】により、始原世界は崩壊し、創造主自身も粉々に砕け、幻獣次元にそのカケラ【ソムニウム】が散らばった。
 このまま、全てが喰らい尽くされようとしていたが、【六界獣】達がそれを食い止めた。
 彼らは【ソムニウム】を束ねてそれぞれ一つずつ、合計六つの世界【六元界】と化して【次元喰らい】を六つに分けて封印した。
 【六元界】は始原世界の残骸から生まれた【幻獣界】を中心として、【ソムニウム】を循環させ始めた。

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2.六元界
 創造主のカケラと【次元喰らい】のパーツで創られた世界は、その陽と陰とも言える力の影響で、不安定な世界となってしまった。
 始原世界と比べ、相反する力の渦により膨れ上がった世界はその規模を増し、様々な様相を示した。
 【六元界】は成長し、その枠からはみ出た部分が、別の世界を生み出し、その世界がまた別の世界を生み出した。
 それらの数多の下位世界が自然に生まれては滅ぶことを繰り返し、循環は行われた。
 これにより全ての世界達の調和を得ることに成功したかと思われた。
 しかし、世界を故意に滅ぼし、次元の均衡を乱すもの達が現れ始めた。
 その中でも最も際立っていたのが、次元侵略集団【VICE】である。

3.VICEによる世界破壊
 世界を形作るエネルギーそのものである創造主のカケラ。それが過激に集中すれば、【次元喰らい】の覚醒に繋がり、次元崩壊への道となる。
 そのことを知ってか、【VICE】はあらゆる下位世界が破壊され、【六元界】の破壊に繋がり、やがて【幻獣世界】の破壊すら為された。
 それらを構成していたほぼ全ての【ソムニウム】と【次元喰らい】のパーツが、【六元界】の一つである【ユースティア】に集中し、巨大で歪な世界へと姿を変えたいった。

4.終束世界ユースティア
 膨大なエネルギーと崩れたバランスにより、【ユースティア】は急激な変化を遂げていた。
 他の世界との道【ゲート】の度重なる出現や、人類の急激な進化。
 それらは【次元喰らい】がやがて覚醒する予兆に過ぎず、全てが無に帰ろうとしているのだ。
 

アルデス

 

 異様な熱気が顔を覆う。アルデスは照り付ける太陽の下で、額に光る汗を拭った。

 訓練場にはまばらに人が散らばり、各々の技を磨き上げている。

 休暇なんて必要ない。休めば休んだ分だけ周りに置いて行かれる。

 事実はどうあれ、彼はそう確信をもって、貴重な休暇も鍛錬に費やしている。

 強さが、戦う力が、何者にも屈せぬ力が、アルデスには必要なのだ。

(もう、もう二度とあんなことは……!)

 血が出るほどに唇を噛み締め、自らの過ちを脳内で反芻する。

 アルデスをかばい、鮮血を散らす上司。

 愚かな行為を叱咤する同僚。

 こちらを嘲るような目で見てくる他人。

 弱さだ。

(俺が、俺だけが間抜けでバカで弱いからだ)

 鉛のように重い腕を振るう。

 仮想の敵を想像し、その敵を討ち取るイメージを作る。

 ただひたすらに敵を圧倒する力があればいい。

 強ければ、誰も傷つかない。誰からの失望も受けない。

 強さ強さ強さ強さ、強さ。

 そうだ全て強くなればいい。

 力を手にするという欲望を込め、鉛のように重い腕を闇雲に振るう。

 余すことない全身全霊を込め――

「やめておけ」

 圧の籠った声が、鼓膜を揺らす。

 まるで肝を掴まれるかのような、圧迫感に思わずアルデスは身を固めた。

 手から剣がスルリと抜け、地面に転がる。

 重厚な金属音を聞きながら、呆けた脳みそのまま声の主を確認した。

「……誰がどう見ようがオーバーワークだ。少し休め」

 黒髪の男がアルデスの拾った剣を拾い上げる。男の一切の無駄なく鍛え上げられた肉体には、数々の傷跡が散らばっている。彼が数々の戦場を駆け抜けてきた強者だと一目でわかる。

 アルデスはその強面の男のことを知っていた。いや、ナイツロードに所属する者なら、知らぬ者の方が稀であろう。

「グーロ・ヴィリヴァス……」

「……」

 若輩で未熟な自分が話しかけられるとは、夢には思わなかったアルデスは、思わず男の名を口からこぼした。

 グーロは黙って鋭い目つきでアルデスを睨む。

 睨まれたアルデスは、肩で息をしながら、話しかけられた理由を探す。

 何故、ナイツロード内でも、トップクラスの実力者が、新米程度の実力しか持たないアルデスに話しかけるのか。

 疲労でふやけた思考では、考えもまとまらないアルデスは、ただただ息を吸って、吐いた。

「……」

「……」

 沈黙。

 どちらも会話をしていたことを忘れたように黙りこくってしまう。

 意味不明の拮抗状態を、どうにかしなければならない。アルデスはそう考え、とにかく言葉を出すことにした。

 

 

夏色ロード3

 

 サラサラとした砂がエレクの身体を捕らえる。

 砂浜は厄介だ。半端な踏み出しでは、前に走ることはできない。この地の利を生かす方法を、未だにエレクは習得していなかった。

 そして、敵は格上。勝ち目はないように思われる。

 圧倒的に不利な状況だが、そんなことは最初からエレクは知っていた。

 負けるとわかっていても、男には戦うべきことがある。

 男の意地と矜持が、エレクにもある。

 故に挑まずにはいられない。

「位置について!」

 鈴が鳴るような可愛らしい声が響く。

 だが、腹這いに砂浜に伏しているエレクは身を強張らせる。

「よーい……」

 ごくりと喉が鳴り、全身に緊張が奔る。

 開始の合図が来るまでの一瞬が永遠に感じられる。

「……」

「ドン!」

 掛け声と空気が破裂する音と共に、エレクは弾けるように立ち上がり、爪先で砂を蹴り、対戦相手の目へ砂の散弾を浴びせかけた。

「ぬぎゃあああああ!」

「わりいなバシュ!」

 バシュの苦悶の声を聞き流し、素早く反転したエレクはそのまま目標に向かって走り出した。

「大人げなさすぎるでござる!」

「ばーか! 勝てばいいんだよ!」

「鬼畜! 人でなし! インチキやろうでござるよ!」

罵倒を聞き流し、目標へ…つまり砂浜に突き立ったビーチフラッグへと一目散に駆けるエレクだが油断は許されない。

 残る距離は半分を切った。しかし、歴戦の勇士であるバシュなら、この程度の距離は一歩の差に等しい。

「んうぬおおおおお!」

 視覚を諦めたバシュはエレクの気配を頼りに、ビーチフラッグへの距離を詰める。

 負ければ痛覚を超越した激辛カレーが待っている。辛みには滅法弱いエレクは何としてでも避けたい刑である。

 そのためなら、例え卑怯だなんだと言われても関係ない。

 異能でもなんでも使ってやる覚悟だ。

「そこで寝てろ!」

「おんぎゃあ!」

 エレクの指先から電撃が迸る。

 殺気が無いため、一瞬反応が遅れたバシュは、電撃の刺激で程よく前進の筋肉をほぐされる。

 エレクはそのまま持続的に電撃を出し続ける。生物である限り、電撃による刺激は筋肉がある限りは否応にも反応してしまう。

 そのことをエレクは知っていたのだ。

 だが、これで終わるバシュではない。

 ボンっと空気を圧迫した音が響き、砂や海水が弾ける。

 バシュが裂帛の気合を持って、周囲の地形を弾き飛ばしたのだ。

「逃さないでござぁああああ!」

「げぇっ!」

 散った海水や砂で電撃を防いだバシュは一呼吸の間でエレクの足を掴んだ。

 二人は縺れて転がり、お互いにスピ―ドを殺す形になった。

「負けるかよ!」

 接近戦であれば、電撃を使える自分が有利だと考えたエレクは、バシュに密着した態勢で電撃を持続的に放つ。

 しばし、当ててやれば動きを止められるはず。その後で悠々とフラッグに辿り着けばいい。

 エレクは、自分の勝利を確信し、バシュの両腕を掴んで、勝利への確信の笑みを浮かべる・

「このまま、くたばっとけよ!」

 電撃のショックで怯んだバシュをスタート地点の後方へ投げ飛ばす。

 フラッグはエレクから見て、五歩も行けば取れる位置だ。

「もらったぜ!」

「させぬでござる!」

 掛け声とともに、バシュの振るった拳が空気を捻じ曲げ、潮風を搔き回す。

 瞬間、フラッグは砂と共に弾けて空を舞った。気を集中させてフラッグへ放ったのだ。

 指先を掠めて飛ぶフラッグを、エレクは苦虫を噛んだような目で見る。

 だが、それも苦し紛れの悪あがきにすぎない。

 エレクは足りない一歩を更に重ねてフラッグへの距離を詰めようとする。が、

「おぶわ!」

 足は空をかき、なかったはずの穴に転げ落ちる。

 なんで、穴が開いているんだ、と思う時間すら惜しい。エレクは上半身だけでも起き上がらせ、バシュの状態を視認する。

 すでに数歩後ろからフラッグ目掛けて跳躍している。

「いただくでござるよ!」

 最早、負けは避けられない、そう確信したそのとき、

「ぐへっ」

「やりすぎだ阿呆め」

 まさに肉壁と言わんばかりの巨漢、つまりリンショウがバシュの顔面を鷲掴みにしていた。

「……エレク」

 いつの間にかエレクの後ろに来たグーロも、手を差し出しながら渋い顔をしていた。

 エレクが周りを見渡すと、砂浜はぼこぼこになっている。遠巻きに見ているギャラリーも少なくはない。

「あー、わりい」

「はしゃぐのはいいが、加減を頼むぞ……」

 エレクは手を取り、吊り上げられるように立たされ、居心地悪そうに後頭部を搔いた。

「バシュよ、あまり暴れすぎるな」

「つい熱中がすぎたでござるよ……」

「ワシも混ぜんか!」

「ええ!?」

 白髪のサムライが空に放り投げられる。

「グーロ!!!!」

「!?」

「ワシと勝負しろぉ!」

 裂帛の気合と共にリンショウは叫ぶ。

 砂が吹き飛び、波が打ち消される。

 そう、既にリンショウは相当の酒を飲んでいたのだ。

「こいつが一番まともじゃなかった!」

「いいから止めるよ!」

 灰色の鬼の酒乱に頭を抱えるエレクをレイドは叱咤して駆け出す。

「お、落ち着いてくれ……」

「ぐわっははははは! ぬわあああはっはっはぁ!」

 ……彼の暴走を止めることができたのは、小一時間ほどかかったという話だ。