旧ナイツロード 幕間1 暗躍

 

 

 

 目下の雲海を眺めながら、男は背後のモニターに

映っている筋骨隆々の男に話しかける。

「ふん。貴様がよく働く奴だというのは知っているが、

これはあまりにもくだらない茶番だな。貴様の領分ではない。

こんなもので、奴が始末できるわけが無いだろう」

 その声には、まるで聞くもの全てを平伏させるような、

凄まじい威圧感がこめられている。

 しかし、モニターに映った男はまるで動じた様子は無く、

飄々とした態度で口を開いた。

「これはこれは。我が主の慧眼は、

この策の浅はかさを既に見抜いておられるようですな。

しかしながら、この策は浅はかだからこそ有効なのでございます。

真なる目的は、奴の排除ではなく、その無意識下での支え……

すなわち、奴の片割れにございます。

奴の片割れには、今まで私の居所を知らせずにいましたが、

力の順応が完了したため、

もはやその必要も無いと考えた結果でございます。

そして片割れを失った奴を排除することなど事も無し……

さすれば、どうかこのハオウめにお任せいただきたく存じます」

 男はその言葉を聞いて、ふん、と鼻を鳴らすと、

モニターに一瞥もくれず、背を向けたまま言い放った。

「そこまで言うのなら貴様に任せよう。

失敗するとも思わんしな……。

だが、望みどおりの結果を上げられなかった時は……

分かっているな?」

 その言葉を言い終えた瞬間、男の身体から

この世の全ての生物を殺してしまえるような、凄まじい

殺気が放出される。

 さすがにこれにはモニターに映った男――ハオウもたじろぎ、

慌てたように首を振る。

「大丈夫でございます。

かならずや、我が主のご期待に沿うことを約束いたします。

では、これより準備に取り掛かりますので、これにて失礼いたします」

 そう言って、通信を切断するハオウ。

 その音をつまらなそうに聞いていた男は、視線を

目下の雲海から、壁に立てかけられたひとつの写真へと

向ける。

 その写真には、一人の人間――元魔族の男が写っている。

 男は、目の前に写っている『人間』を見つめながら、

静かに呟いた。

「さあ、貴様は私を潰す事が出来るか? 賽は既に投げられたぞ。

我が旧友……デルタ・ルージュよ」

 雲の狭間に、狂気的な嗤い声が響く。